千草竹原で暮らす人、働く人

淡路島のほぼ中央に位置する兵庫県洲本市・千草竹原(ちくさ たけはら)集落。

かつては多くの人々が生活し、自然豊かな農山村としての営みが当たり前だったこの地も、近年は高齢化や過疎化といった課題に直面しています。

そんななか、この集落で長年暮らしてきた人、あるいは移住して新たな営みを始めた人がいます。

今回は、千草竹原と深く関わりを持ち、それぞれの視点から地域に貢献する4名の方々にお話を伺いました。

ヒアリングを行った地域住民の中で、長年千草竹原に住み、関わりを持っている人は水田進さん、太田明広さんです。また、移住者として地域に入り、千草竹原と関わりを持つ人が小林力さん、谷口史朗さんです。

目次

1.地元生まれの「花山水」を守る —— 水田 進(みずた・すすむ)さん

生まれも育ちも千草竹原
1949年、千草竹原生まれ。25歳の結婚を機に一度は市街地へ移り住みましたが、子どもが結婚する際に再び故郷へUターンしました。
「過疎化で生まれ故郷がなくなるのではないか」という危機感から2007年に開園した紫陽花園「あわじ花山水」は、水田さんにとって“地元を守る最後の砦”のような存在です。

ネーミングは「花と山と水しかない」という自然そのものを表す「花山水」に、“検索で見つけやすいように”と「淡路(あわじ)」の頭文字を添えたのだそうです。

「自然を壊さず、緑や原風景を残したまま、集落を続けていきたいですね。新しく移住してくれる世帯が一軒でも増えたら、本当に心強いです」

長きにわたる椎茸栽培との関わり
会社員として働きながら40年間、副業としてしいたけ農園(あわじ山水園)で椎茸を出荷してきました。

現在はあじさい園の「あわじ花山水」と「あわじ花山水キャンプ場」の運営が中心ですが、移住者の若い世代と一緒に地域づくりの活動を進めています。

「道が狭く車の行き違いが難しいので、待避所(注1)を増やしたり、道路を改修できれば、来園者も集落の住人も安全に移動しやすくなると思います」

千草竹原集落の道(2024年10月19日撮影)

▶あじさい園「 あわじ花山水」の詳細はこちら

http://www.awajihanasansui.com/

▶「 あわじ花山水キャンプ場」の詳細はこちら

https://awajihanasansui-camp.studio.site


2.農業と畜産を支え、移住者を歓迎する —— 太田 明広(おおた・あきひろ)さん

婿養子として42年
1982年に結婚し、婿養子として千草竹原へ移住してから42年。50歳のときに建設会社を早期退職し、農業を本格的に継承する道を選びました。

「もともと両親がやっていた農業ができなくなってきたので、それを引き継いだんです。しきみ(注2)を出荷したり、祖父から引き継いだ牛の繁殖・育成も続けています」

若い力が求められる集落へ
50歳を超えてからの農業・畜産への本格参入は大変な面もある一方で、移住してくる若い世代にとって頼れる先輩でもあります。

「地域には若い力が本当に必要です。今は交流人口から関係人口へ、そして実際に移住してくれる人をどう迎え、どうサポートするかが大事。必要な資格・手続きのハードルもあるので、行政と連携しながらもっと手厚く支援していってほしいですね」


3.IT×地域おこしで目指す新たな拠点づくり —— 小林 力(こばやし・りき)さん

東京から淡路島へ、そして千草竹原へ
1991年、新潟県生まれ。大学卒業後は東京のIT企業でシステムエンジニアとして働いていましたが、子どもの誕生を機に移住を検討。妻の実家が近い淡路島の洲本市で、地域おこし協力隊の募集があったことをきっかけに2021年に移り住みました。2024年3月に協力隊を卒業後、新たな生活の場として選んだのが千草竹原です。

「ここにある空き家をリノベーションして集会所と宿泊施設をつくり、ITを活かして情報発信や地域活性化に繋げていきたいんです。グーグルマップの拡充など、デジタル面から地域を盛り上げたいと思っています」

民泊開業と旅行業への展望
2025年にはリノベーションした空き家で宿泊施設を開業予定。旅行業の資格を活かしたプラン作成や販売、また学生の考えたプラン・ツアーを試す「学びの実践の場」にする構想を描いています。

「大学などとの連携を通じて、学生が地域をフィールドワークする拠点になれたらいいですね。自分はそのためのスキルを提供し続けたいと思っています」


4.原木椎茸を集落事業に —— 谷口 史朗(たにぐち・ふみお)さん

学生時代から淡路島へ関わり
1993年、京都府生まれ。大学2年のときに洲本市で1ヶ月のフィールド合宿に参加したのがきっかけで淡路島に興味を持ち、卒業後は大阪で働いたのち2019年に「洲本市地域おこし協力隊」へ。

「1年ほど水田さんのしいたけ農園を手伝いながら学びました。その後は『竹原原木椎茸』として、2021年に椎茸農園をプレオープン。水田さんが2017年まで続けていた原木椎茸の栽培・収穫体験を受け継ぎました」

新たなチャレンジ:お出汁とレタス栽培
椎茸だけでなく、お出汁のクラウドファンディングにも取り組み、商品開発までは進んだものの、現在は人手が足りず中断中。太田さんから田んぼを借りてレタス栽培も始めるなど、多角的に挑戦を続けています。

「今はレタスやしいたけの繁忙期が重なるのが悩みで、来年以降はどう続けるか検討中です。それでも、可能性はまだまだあると思っています」

循環型の集落づくりを目指して
コンポスト(注3)を集落に導入し、生ゴミや落ち葉を堆肥化して販売する構想や、原木の確保が難しい現状を打開するための山の開墾など、やりたいことは尽きません。

「原木椎茸を1万本弱まで増やして、集落全体で動かせる事業にしていきたいです。地域のみんなでつくるビジネスモデルを目指しています」


おわりに

☆ここに学生からの総括があるといいですね。


用語説明

  • 注1:待避所
    狭隘道路において対向車同士が安全にすれ違うために一時的に退避できるスペースのこと。
  • 注2:しきみ
    葬儀や法事の際に供えられる常緑樹で、抹香や線香の原材料としても用いられる。千草竹原では出荷用のしきみの栽培が行われている。
  • 注3:コンポスト
    家庭から出る生ごみや落ち葉などの有機物を微生物の働きを利用して発酵・分解させ、堆肥に変えるプロセスや、そのための容器・施設を指す。

(取材日:2024年10月19日 小林さん、10月20日 水田さん・太田さん、11月6日 谷口さん)

まとめ

スクロールできます
氏名居住地千草竹原での取り組み将来像資格
水田 進
(みずた すすむ)
千草竹原– 紫陽花園「あわじ花山水」の運営
– 原木椎茸の栽培・出荷
– 自然を残しながら集落を継続
– 移住者が増えることを希望
– 道路整備・待避所の設置
(特になし)
※会社員経験・副業で椎茸栽培
太田 明広
(おおた あきひろ)
千草竹原– しきみの出荷
– 牛の繁殖・育成(計9頭)
– 交流人口から関係人口の増加
– 若い世代の参入・サポート強化
建築業資格全般
小林 力
(こばやし りき)
千草竹原– 空き家リノベ(集会所・宿泊施設)
– ITを活用した地域情報発信
– 移住イベント等の実施
– 旅行業の資格を活かし、民泊・ツアー企画
– 大学等と連携し実践教育の場に
– 応用情報処理技術者
– 第二種電気工事士
– 防災士
– ユンボ運転免許
– フォークリフト免許
谷口 史朗
(たにぐち ふみお)
洲本市・大森谷– 「竹原原木椎茸」農園の運営
– レタス栽培
– お出汁の開発・販売(現在中断)
– 原木椎茸を1万本弱まで拡大
– コンポスト導入で循環型集落へ
– クヌギ林の開墾
– 中型免許
– ユンボ運転免許
– ショベルカー運転免許
– フォークリフト免許

龍谷大学学生取材ドキュメント

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